犬の歯がぐらついている|原因と対処、予防について獣医師が解説
ふとした時に愛犬の口を見て「歯がぐらついている?」と気がつくと、心配な気持ちになりますよね。
犬の歯は食べる、噛む、遊ぶといった日常の行動にとって欠かせないものです。
人と同様に、犬の歯は健康を考える上でとても重要なものです。
この記事では犬の歯がぐらつく原因やその対処法、予防について詳しく解説いたします。
ぜひ最後までお読みいただき、犬の歯を守るためにどんなことが大事か理解を深めていきましょう。

犬の歯がぐらつく主な原因と症状
犬の歯がぐらつく主な原因と、症状について、それぞれ紹介していきましょう。
乳歯から永久歯への生え変わり
犬は生後3〜4ヶ月から生後6〜7ヶ月頃に、乳歯が抜けて永久歯に生え替わります。
その過程で乳歯がぐらつくことがあります。
乳歯がぐらつくのは自然な状態であるため、特に大きな症状はありません。
ただし生え変わりの時期は歯がむずむずするため、口を気にしたりおもちゃなどを噛んだりすることもあります。
乳歯の抜け変わりのタイミングによっては、噛んだおもちゃに血がついてしまうこともありますが、ほとんどの場合は心配ありません。
歯周病
歯のぐらつきの原因として一番多いのは歯周病です。
犬の歯周病とは、歯垢に含まれる細菌によって、歯肉や歯周組織(歯の周りの骨)に炎症を起こす病気です。
歯周病が進行すると歯の周りの骨が溶け、歯がぐらついたり脱落する原因となります。
歯周病になると、
- 口臭が強くなる
- 歯茎が赤く腫れる(歯肉炎)
- 歯茎から出血する
- 食欲低下
といった症状が出ることがあります。
しかし、歯がぐらついていても、症状があまり出ないことも多いため、気がついたら歯が抜け落ちた状態でご来院されることも少なくありません。
外傷
犬が遊んだり何かを噛んでいるときに、歯が損傷すると歯がぐらつく原因になることがあります。
特に骨などの固いおもちゃは歯が折れたり、口の中を傷つけたりするため注意が必要ですね。
また事故や高いところから落下した場合も、歯が折れたり脱臼してしまう場合もあります。
症状としては、出血や痛みを伴うため、口元を気にしたり、食欲が落ちてしまうこともあります。
口腔内腫瘍
口腔内の腫瘍によって、歯並びが乱れ歯のぐらつきや脱落の原因となることがあります。
口腔内の腫瘍には以下のようなものがあります。
- メラノーマ(悪性黒色腫)
- 扁平上皮癌
- 線維肉腫
- エプーリス
以下が口腔内腫瘍による主な症状です。
- 口臭
- よだれの増加
- 食べ方の変化や嚥下困難(飲み込みが悪くなる)
- 口からの出血
- 食欲の低下、体重減少
また悪性腫瘍の場合は進行が早かったり、他の組織に転移したりする場合があります。
転移先によってさまざまな症状が出てくる可能性があり、全身的な症状や命に関わってくることもあるため、早急な対応が必要です。

犬の歯のぐらつきを放置するとどうなる?
歯周病によって歯がぐらついている場合は、放置し重度になってしまうと顎の骨が溶け、顎の骨折に繋がってしまう場合もあります。
特に歯周病による下顎の骨折の例が多いです。
また、歯根の炎症が鼻の方まで広がる「口鼻腔瘻」と言う状態や、歯根に膿が溜まり顔の皮膚が破けてしまう「根尖膿瘍」といった状態になることもあります。
そして歯周病菌が血液にのって、心臓やその他の臓器を障害し、全身に影響を及ぼすということもあるため、歯周病は怖い病気なのです。
また外傷により歯がぐらついている場合も自然には治癒しないため、折れた箇所から細菌感染を起こし、状態が悪化することもあります。
口腔内腫瘍も悪性のものは全身に影響を及ぼすこともあるため、歯がぐらついていたり、できものが出来ている場合は、放置せず早期に治療開始することが重要です。
犬の歯のぐらつきの治療法
犬の歯がぐらついている場合は、多くの場合抜歯が必要です。
視診やレントゲン検査で歯の状態を確認し、残せない歯は抜歯の対象となります。
「歯を抜く」と聞くと、心配される飼い主様も多いかもしれません。
基本的に犬の歯は抜いても生活に大きな影響はありません。
抜歯の処置が必要な場合は、安心して治療を受けてください。
歯周病の場合は、抜歯に加えて
- 歯石・歯垢の除去
- 歯石の再付着の予防
- 抗生剤の投与
といった治療が必要になることもあります。
口腔内腫瘍が原因で歯がぐらついている場合は、抜歯をすることによって腫瘍を広げてしまう可能性があります。
口腔内腫瘍が疑われる場合には、腫瘍の特定と、それに応じた適切な治療を行うことが必要です。
専門的な治療が必要になることもあるので、腫瘍や歯科に強い動物病院に相談をすると良いでしょう。
乳歯がぐらついている場合は、自然に抜け落ちる場合が多いです。
ただし様子を見ていても変わらない際は、一度病院に相談してみてください。
犬の歯のぐらつきの原因は進行性であることが多いため、放置すると治療が困難になったり、犬の生活の質が低下したりする可能性があります。
基本的に犬の歯のぐらつきを発見した場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
犬の歯のぐらつきを予防するには
犬の歯のぐらつきの原因で一番多いのは、歯周病です。
犬が2〜3歳の時点で歯周病の保有率は80%程度との報告もあります。
小さいうちから、歯磨きによる歯のケアを行い、歯周病の進行を防いでいくことが重要です。
また日頃から歯のお手入れをすることで、犬の口の中のできものや歯肉の腫れなどのトラブルにも気が付きやすくなります。
骨などの硬すぎるおもちゃは歯が折れてしまったり、口の中の怪我にも繋がります。
日頃使用するおもちゃの見直しも行いましょう。

まとめ
犬の歯のぐらつきは、背景に歯周病や腫瘍などが隠れている場合があるため、注意が必要です。
犬の歯の健康は生活の質に大きく関わります。
当院では歯科診療に力を入れています。
犬の歯がぐらついている場合だけでなく、普段からの歯の定期検診、お手入れの仕方などのご相談でも気軽に当院にお越しください。
犬の歯を守ることにより、健康な生活を維持できるようにしていきましょう。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 犬の歯がぐらついているのを見つけました。自然に治ることはありますか?
A. 成長期の乳歯であれば自然に抜けることが多いです。ただし、永久歯がぐらついている場合は自然に治ることはありません。
特に歯周病や外傷、腫瘍が原因のケースでは、早期の動物病院での対応が必要です。
Q2. 歯のぐらつきがあっても、犬が痛がらないようです。放置しても大丈夫でしょうか?
A. 歯のぐらつきを放置すると歯周病の悪化や顎の骨折、口鼻瘻・歯根膿瘍といった重大な合併症につながる可能性があります。
歯のぐらつきがある場合はできるだけ早めに受診しましょう。
Q3. 歯のぐらつきを予防するために家庭でできることはありますか?
A. 歯のぐらつきを予防するためには、歯周病予防を行いましょう。歯磨きを習慣化することが効果的です。
あわせて、硬すぎるおもちゃを避ける、歯肉の状態を日常的に観察する、定期的に動物病院で歯科健診を受けることも大切です。
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