歯科

歯周病治療・歯周外科

2歳齢までの猫の70%、犬の80%が歯周病
年1回の超音波スケーラーを使用したスケーリングは死亡リスクを18.3%低下させる

このような報告があります。
歯周病を良好にコントロールすることは長生きに繋がるということです。
歯周病の治療は全身麻酔をかけて行いますが、抜歯本数が多くなければ基本的には日帰りで行います。

歯周病の原因は?

歯周病の原因は歯周ポケット内の歯垢(プラーク)です!
歯にびっちりついた歯石はインパクトが強いため、歯石が悪さの根元のように思いがちですが、歯石は歯周病の悪化要因であり、原因ではありません。
そのため、歯周病の治療で最も大事なことは歯周ポケット内を徹底的に綺麗にすることです。治療を確実に行うためには全身麻酔下での検査と処置が欠かせません。

無麻酔の歯石除去ってどうなの?

「無麻酔」という言葉は魅力的ですが、無麻酔の歯周病治療は治療効果に乏しいどころか悪影響を及ぼすことが多々あります。
日本小動物歯科研究会でもアメリカ獣医歯科学会でも無麻酔での歯科処置はすべきでないと明言されています。
無麻酔での歯科処置をお勧めしない理由はこちら(無麻酔での歯科処置のデメリットのページ)をご覧ください。

麻酔、リスクあるんじゃないの?

私たち獣医師は毎日のように麻酔をかけているので、麻酔がそこまで怖いものでないことを知っています。
しかし、我が子が麻酔をかけるとなったら不安に思う飼い主さんがほとんどだと思います。
麻酔前の検査(血液検査、レントゲン検査等)を行い、麻酔リスクの評価をすることでより安全に麻酔をかけられるようになります。
重度の全身疾患がなければ犬で99.95%、猫で99.89%は麻酔で亡くなることはないと報告されています(Brodbelt et al.,2018)。

どんなことするの?

1. 超音波スケーラーによるスケーリング、ルートプレーニング

Before
After

超音波の力で歯石を壊して歯の表面についた歯石・歯垢を徹底的にクリーニングします。歯周ポケット内の歯石・歯垢も専用の器具を使って丁寧に取り除きます。
最も大事な処置です。

2. 歯科レントゲン、必要に応じて抜歯、歯肉縫合

赤い矢印で囲んである部分の骨が溶けています。
Before
After

外からは歯がないように見えた部分のレントゲンを撮ると歯根部が折れて残っているのがわかりました。

グラグラ揺れる歯や歯周ポケットがあまりにも深い歯などは抜歯の対象となります。
歯の根元で歯周病菌が感染すると根元周囲の骨が溶けていきますが、これはレントゲンを撮らなければ分からない場合も多いです。
動物病院では歯科用レントゲンはまだあまり普及していませんが、当院ではしっかりと診断ができるように歯科レントゲンを導入しています。
歯科レントゲンを撮ると新しい異常が見つかることが多いので、基本的には全症例で歯科レントゲン撮影を行うことをおすすめしています。

抜歯した場所の穴が大きい場合(特に犬歯(牙の歯))、術後時間が経ってもその穴が残ってしまい(ドライソケット)、食べかす等が溜まり炎症を起こすことがあります。
その対策として、当院では歯茎を縫い合わせて穴を塞ぐ歯肉縫合を行います。伸縮性の無い歯茎を伸びるように処置して穴を塞ぐので意外と大変です。

【歯周外科】

根っこが1本の歯、2本、3本の歯があり、歯によって抜歯のしやすさが異なります。
根っこが2本、3本の歯は状況に応じてドリルで分割をして根を1本ずつにしてから抜歯を行います。
犬歯(牙の歯)は特に根っこが長く、抜歯が困難な場合には根っこの外側の骨をドリルで削ってから抜歯を行います。
この際には、歯肉を切開して、骨を削って、抜歯をして、歯肉を縫合して、と工程の多い処置となります。

3. ポリッシング

スケーラーを使用して歯石や歯垢を綺麗にした歯の表面には、目には見えないレベルの傷がついています。
そのままにして置くと歯石が付きやすくなるので、最後に表面をツルツルにする研磨(ポリッシング)を行います。
これをやるとやらないでは雲泥の差があります。
研磨剤を使うため、口の中の液体を吐き出すことのできないどうぶつ達は麻酔をかけた状態でないと難しい処置です。

術後は歯石・歯垢は無くなり、お口の臭いも無くなりますが、その後のケアができないと2週間で炎症が戻ってしまうとの報告もあります。歯磨きをさせてくれない子も多いと思いますが、それでもできる事はいっぱいあります。
歯周病の予防で一番重要なのはご自宅でのデンタルケアです。詳しくはこちら(予防医療のデンタルケアのページ)をご覧ください。

無麻酔の歯科処置のデメリット

当院は無麻酔での歯石除去をお勧めしません。 以下のようなデメリットがあり、苦しんだどうぶつを見てきたからです。

1. どうぶつが恐怖感・苦痛を感じる

どうぶつ自身は何をされているのか理解できないため、短くない時間押さえられて口の中をいじられることに恐怖を感じます。処置に使う器具は鋭利であるため、どうぶつが動くことで容易に歯肉や舌、口の粘膜を傷つけ、痛みが生じます。大切なのはご自宅でのデンタルケアであるのに、口の中をいじられることに恐怖・苦痛を感じたどうぶつはお家でのケアを拒否するようになります。心臓病のワンちゃんが無麻酔で歯石除去をして亡くなったケースも聞いたことがあります。

2. 治療効果が乏しい

歯石が取れると見た目が綺麗になり、口臭もある程度軽減されるため効果を感じる飼い主さんが多いですが、歯周ポケットの処置が適切になされない限り歯周病の治療にはなりません。無麻酔で歯周ポケットの処置は困難であり、内側の処置はさらに難易度が増すため、歯周病の治療効果はほとんど見込めません。そもそも獣医師免許を持たない人が歯周病の治療をすることは違法です。歯周病の原因が歯周ポケットの歯垢であることを覚えておいてください。

3. 怪我のリスクが高い

前述しましたが、鋭い器具で口の中は簡単に傷つきます。無麻酔の処置で歯を折った、下顎を骨折させたという報告もあります。因果関係は確定的ではありませんが、トリミングサロンでの歯石取りの直後から後肢が麻痺した症例も経験しています。

4. 歯石が付きやすくなる

器具で歯石や歯垢を除去した歯面には凹凸があり、これを放置すると歯石が沈着しやすくなります。麻酔下であれば適切にポリッシング(研磨)をして歯面を滑らかに整えられますが、無麻酔だとポリッシングは難しく、付着したポリッシングペースト(研磨剤)を除去するのも困難です。一時的に歯石が取れ、見た目は改善しますが、その後歯石が付きやすくなってしまいます。

5. 誤嚥のリスク

気管挿管(麻酔時に使う気管チューブ)なしで口腔内の洗浄を行うのは、誤嚥し気管や肺にダメージを与えるリスクが伴います。

無麻酔の歯科処置がどうぶつに優しくない処置であるとご理解いただけると幸いです。
健康であれば麻酔は99.9%安全に行うことができるというデータがあります。
不安なことは遠慮せずに診察中にお聞きください。丁寧にお答えします。


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